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ヤバい経済学―悪ガキ教授が世の裏側を探検する

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ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
スティーヴン・レヴィット スティーヴン・ダブナー 望月 衛
東洋経済新報社 2006-04-28
評価

by G-Tools , 2006/12/28

俺は経済学って割と偏見を持って見ていて、特に***学派を標榜するものは、眉につばを付けてみるようにしている。と言うのも、それらの学説はあくまで架空のモデルに基づくもので、実生活ではそれらに反する事例に多々遭遇するからだ。

で、本書はと言えば、もう面白くって頁をめくる手が止まらないほどだった。
前書きで共著者の一人の経済学者レヴィットの風変わりなモノの見方、人柄が紹介される。
それを枕に、所謂「通念」を丹念にデータを調べることによってどんどんひっくり返していく。相撲の八百長なんかはまあ今更言い立てるほどのことではないが、犯罪と中絶の関係には蒙が啓かれる思いがした。

とにかく"事実"に向き合っているので、一つ一つの事象が非常に納得いく形で掘り下げられている。

この本のキモは「変数」にある、と俺は感じた。世の中の事象にある無数の「変数」から丹念に「因果」と「相関」を切り分けていく地道な作業。これらが世の中の仕組みを解き明かすための必要なことなんじゃないかな、と本書を読んでそう考えた次第。世の中、因果と相関を混同しているのって結構あるように感じているし。

難点を上げるとすれば、"ヤバい経済学"と言う邦題か。原題の"Freakonmics"の方がよっぽどしっくり来ると思うんだけど。

ま、それは置いておいて文句なしにお薦めの一冊。

秘太刀馬の骨

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秘太刀馬の骨
藤沢 周平
文藝春秋 1995-11
評価

by G-Tools , 2006/12/18

最近意識的に小説を読むようにしている。
と言うことで、ここのところ伝奇物時代物に興味がわいてきたのでとりあえず馴染みやすそうなものを手に取ってみた。NHKでドラマ化されたのも見たし。
結論から言うと面白かった。

まず、主人公浅野半十郎がよい。派閥に所属し、派閥の長から秘太刀探し(の補佐)を命じられ、任務に疑問を抱きながらも家老の甥を補佐して剣客との立会に奔走する一方、家では妻の気鬱に苦悩する。固有名詞を入れ替えたらそのまま企業小説になる様な設定で、この好人物に親近感を抱いた。一方、剣客達と次々と立ち会う家老の甥石橋銀次郎の秘太刀に賭ける並々外れた執念もまた凄い。最初は毒気に当てられるが、徐々に人物が見えてくると不思議と好感を抱いてしまう硬漢だ。
一方、秘太刀の使い手と目される5人の剣客達もそれぞれの事情を抱え、そこを石橋銀次郎につつかれて仕方なしに立ち会うわけだが、その事情もまた余韻深いものがある。個人的には孫之丞の章が一番のお気に入り。

本書は現代的な要素と、ミステリの要素と、時代小説の要素がほどよく組み合わさっており、時代小説初心者の俺には最適の一冊だと思った。
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秘太刀 馬の骨
藤沢周平 山本むつみ 内野聖陽
NHKエンタープライズ 2006-02-24
評価

by G-Tools , 2006/12/18

ららら科學の子

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ららら科學の子
矢作 俊彦
文藝春秋 2003-09-25
評価

by G-Tools , 2006/12/13

最近意識的に小説を読むようにしている。
で、手に取ったのが本書。矢作俊彦氏の著作を読むのは『スズキさんの休息と遍歴』以来だから……およそ10年ぶりか?
で、結論から言うと非常に面白かった。続きが気になって一気に読み終えてしまった。

野暮な感想を書こうと思ったが、ググったら素晴らしい書評を見つけたのでリンクするのみにとどめる。

オンライン書店ビーケーワン:ららら科学の子「『アトム世代』が書いた優れた現代小説。装幀も素晴らしい。」
あと、併せて著者のインタビューもどうぞ。
文藝春秋|本の話より|自著を語る

「口コミ」の経済学

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「口コミ」の経済学―人が人を呼ぶ“ブーム”の作られ方
田中 義厚
青春出版社 2003-08
評価

by G-Tools , 2006/12/11

"正直は最良の外交である"と言ったのは小村寿太郎だったか、伊藤博文だったか。元はビスマルクらしいけど。
インターネットが普及期に入って「口コミ」とか「バズマーケティング」という言葉が喧しい昨今、図書館でふと目に入って手に取った。

2003年に書かれているので取り上げられている事例は古いものの、内容的には今も通用するもので、人間の本質が如何に変わらないかを示している。

簡単にまとめると、商品に魅力があり、且つ、語りたくなる物語があると、口コミに乗りやすい。ただし、口コミは批判を伴わないで流通するため流言飛語にもなりやすい(事例として関東大震災時のデマ)。作為的な口コミはかえって逆効果で、正直であることが大事と。あー、どっかで聞いたような話だ。

ちゃんとした書評はこちらにあったのでリンク

徹底読破: 口コミの経済学
今日紹介する本は、『「口コミ」の経済学』(田中義厚/青春出版社)です。
扱っている内容は、経済学というより経営学ですね。以下要点をまとめます。

言葉も平易で分かりやすく、あっという間に読めるので口コミマーケティングに興味がある人にお勧め…なんだが既に絶版らしい。勿体ない。

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Future is mild:繰り返される悲しみは島渡る波のよう

サラーム・パックス―バグダッドからの日記

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サラーム・パックス―バグダッドからの日記
サラーム パックス Salam Pax 谷崎 ケイ
ソニーマガジンズ 2003-12
評価

by G-Tools , 2006/12/04

サラーム・パックスの名を初めて知ったのはHotWiredのニュースだった。
バグダッドのブロッガーの身に異変? | WIRED VISION コメントを見る
戦時下のイラク・バグダッドから、インターネットを通じて街の様子や、戦争への思いを連日発信してきたイラクのブロッガー『サラーム・パックス』が24日夜(現地時間)を最後に沈黙している。インターネット・ユーザーの間では、彼の身に何か起こったのではないかと心配する声が上がりはじめている。
「行方不明」だったバグダッドのブロッガーが復活 | WIRED VISION コメントを見る
ウェブネームを『サラーム・パックス』というこの筆者の掲示は、6週間余り前から途絶え、多くの人が不幸が起きたのではないかと心配していた。しかし今回、パックスはウェブサイト『Where is Raed?』に復活し、約2ヵ月分の日記を書き込んでいる。
関係ないが、Wiredではサラームだったり、サラムだったりする。

と言うわけで、映画化されるというニュースをキッカケに本書の出版を知り、読んでみた。

で、戦争前から戦後の混乱期までをイラクの一人の青年として綴ったブログを本にしたもの。実際のブログは写真が多数納められていたらしいが、こちらは文章のみ。
ステレオタイプなイラク人を想像した人は期待を裏切られるだろう。読み進めれば分かるが、サラームは外国での教育を受けたこともある教養溢れる若者で、両親はCPA(覚えてる?)の高官にアドバイスするほどの地位の人らしい。何よりも14歳のサラームに英語で書かれた"1984年"をプレゼントするような人だ。ブログではトラヴィスやColdPlay、ビョーグ等のお馴染みのアーティストの名前も出てくる。
経済制裁下のイラクで、自分が普段聴いているような音楽を聴いている人がいるなんて想像もしていなかった…
読んでもらえば分かるが、サダムの悪政には反対しているが、アメリカの介入には反対。戦前は秘密警察に怯え、物価の上昇・為替の変動に翻弄され、戦後は宗教勢力による反米テロに反対する。

Wiredにもあるように、米国主導の有志連合によって爆撃が始まってから更新が止まっていたようだが、無事再開されている。現在はURLが変わっているので貼っておこう。

現在のサラームのブログ

shut up you fat whiner! コメントを見る

サラームの友人ラエドのブログ

Raed in the Middle コメントを見る

上記ブログの日本語版

ritmj コメントを見る

戦争報道になると、アル・ジャジーラと言う例外はあるもののどうしても西側メディアからの報道が中心となる。特に今回のイラク戦争は驚くほどプロパガンダが行われた戦争だった。そう言ったさなか、画面の向こうに人が生活をしていることを実感するためにもこういったブログの重要性を感じる。

次はこれを読むべきか。

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バグダッド・バーニング―イラク女性の占領下日記
リバーベンド Riverbend リバーベンドプロジェクト
アートン 2004-07

by G-Tools , 2006/12/04

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Future is mild:イラク戦争前後のバグダッド生活を綴ったブログが映画化

インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門

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インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門
白田 秀彰
ソフトバンククリエイティブ 2006-07-15
評価

by G-Tools , 2006/12/04

副題に"かなり奇妙な"と入っているが、非常にまっとうな主張に思えた。これは単に俺がネットずれしているだけだろうか。

HotWired Japanに連載されていた同名の連載に加筆・修正したもの。2003年5月に第一回が始まっているので、内容的には少々古い面(2ちゃんねるが主流でブログは影しか見あたらない等)も感じるが、その主張は色あせてはいないのが素晴らしい。知財に関わる話や、匿名・顕名の問題については今も続いているわけだし。

平易な語り口で法の基本的な部分(英米法と大陸法の違いなど)を語り起こしているので、法の基礎的な知識が欠けている人にもお勧め。

なお、興味を持った人はまずウェブ版をチェックしてもらいたい。
お勧めはポリシー・ロンダリングと知的所有権に関する回かな。

第5回 知的財産権制度と封建制について
馬に乗って旅を続けるあなたの目前に一面の野っぱらがあったとしよう。やっぱり馬で近づいてきたオッサンがあなたに「ここは領主ウィリアム・ゲイト様の土地なり。ここから先に進むことは許さん。早々に立ち去るがよい!」と言ったとしよう。そこであなたが、(A)「何をいってんの?この人」と思うか、それとも(B)「ああ、そうか、じゃ出て行かなきゃ」と思うか。土地に基礎を置いた文明をもつ「くに」を基本として考えるなら、(A)は野蛮人で(B)は文明人。私たちは文明人だから(B)の考えをそれほどヘンテコだとはおもわないだろう。
第9回 メンドウな事態とポリシー・ロンダリング
で、ポリシー・ロンダリングは新造語なんで確定的な定義はないけど、次のようなものだろう。ある政策が必要だと政府が考えている。でも、さまざまな法律や制度や国民の意識等によって議論が紛糾することが確実であり、実現困難であることが予想されるとする。でも、どうしてもその政策を実現したいと考えたとき、どうするか。そこで舞台を外交や国際機関に移してしまう。同じような政策の実現を目指しているにもかかわらず、同じように議論が紛糾して困っている国の代表をどこかに集める。で、国際条約とか、国際合意とか、国際行政協定とかそういった国際的なレベルでの合意事項にしてしまう。

インターネットと法と言えば、この行為は合法か否か、と言った場当たり的な技術論が多いわけですが、本来は法目的を考えた上で合理的か否か、と言う判断が必要です。本書はレッシグ教授の著作と並んでそう言った思想を持った本と言えるでしょう。

ただ、やはり法知識がない人にも分かるように書かれているため、やや浅いと思うところもあるのも事実。できれば、本書を契機として、"CODE"や"コモンズ"に並ぶ次回作を期待したいところ。

あと、これは余談なんですが、先日読んだ"2ちゃんねるで学ぶ著作権"にも突っ込みを入れてますね。
ご冗談でしょう、牧野先生
ところが、読んでて「?」と思うようなところも散見された。著作権法に関する議論は、不確定かつ微妙なものが多く、さらに論者が依拠している理論的立場からも考え方が変わったりする。とはいえ、そんなことをゴニャゴニャ説明していたら、読者にはなにがなんだかわからなくなる。そういう意味で結論を(あるていど)断定しながら進めることになる対話体の本書に取り組んだ牧野先生は漢(おとこ)だと思う。

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Future is mild:2ちゃんねるで学ぶ著作権

SF魂

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SF魂
小松 左京
新潮社 2006-07-14
評価

by G-Tools , 2006/12/01

本書は(おそらく)映画『日本沈没』の公開に合わせて出版されただろうSF作家の小松左京氏の自伝的作品。結論から言うと面白かったです。

あれは大学生の頃だったか、実家の2階にある納戸の書棚にあった二冊の『日本沈没』。ふと手にとってむさぼるように読んだ。それが俺のファースト小松左京だった。で、セカンド小松左京が『首都消失』。なんて分かりやすい。

で、少年時代から高校、大学そして浪人から物書きになり、やがて万博との関わりを経て現在に至るまでのことが面白いエピソードを交えながら書かれている。氏の作品にはなんというか、無常観と希望が混淆している感を受けるのだが、これは戦中時の経験によるものかなあ、と。

日本のSF文壇の雰囲気や70年代の日本の雰囲気が分かって面白い。個人的には大阪万博に関わった経緯、その苦労話が面白かった。

先日NHKの番組に出演された小松氏を見たが、流石に年齢を感じさせる。にもかかわらず若い人たちと交流し、分からないことを教えてくれと訊ねるその姿勢に限りなくリスペクト。そりゃ今でも作品を書けるわけだと思った。

改めて小松左京作品を読もうと思わせる本でした。

2ちゃんねるで学ぶ著作権

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2ちゃんねるで学ぶ著作権
牧野 和夫 西村 博之
アスキー 2006-07-03
評価

by G-Tools , 2006/11/26

うへぇ、キモい、と思いながら頁をめくった。

何がキモいってこの本全編バッドノウハウと言うか、どうやったら訴えられないか、どうやったら訴えれるか、っていう着眼点でばかり書かれているから。著作権法の理念とかそう言うのは一切顧みられない。編集者も出版社の社員とは思えないレベルですね。野党の党首を侮蔑するAAを出したり(P.114)。

あと、牧野弁護士はフリーソフトウェアとかオープンソースとかちゃんと理解しているんだろうか、と言う記述が目立つ。ネットの著作権と言えば最近じゃクリエイティブ・コモンズ略してクリコモなんか外せないと思うんだけど、P.131のコラムを読む限り、なんか変な理解をしているとしか思えない。P.175のコラムも。P.177では「2ちゃんねるにGPLを適用できるか」なんてあって吹いてしまった。

この本は日常的に権利侵害を行なっていて、同時に自分の権利だけはしっかり主張したい人にはいいかもしれないけど、それってうへぇと思うのですよ。

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子ども兵の戦争

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子ども兵の戦争
P.W. シンガー Peter Warren Singer 小林 由香利
日本放送出版協会 2006-06

by G-Tools , 2006/11/25

『戦争請負会社』で一躍名を知らしめたP.W.シンガーの新作。テーマは子ども兵。

俺はNewsweek(日本語版)なんかを購読しているので、時々アフリカの子ども兵の写真を見る。また、本書に登場するミャンマーの武装組織"神の軍隊"の双子の指揮官だった、ジョニー・フトゥとルター・フトゥの有名な葉巻を吹かす写真も見た。こういうものを見るたびに切なさを覚えたものだった。 なお、フトゥ兄弟についてはこちらが詳しい。

ミャンマー:犠牲者としての武装集団の少年リーダー
ジョニーとルターのフトゥー兄弟が今週、ミャンマー(ビルマ)国境のタイ西部で投降し、タイ当局者に手を引かれて出てきた。その姿はミャンマーの武装勢力のリーダーというより、行方不明になっていた13歳の少年たちのようだった。

本書は大きく三部構成となっており、「第一部 戦場の子どもたち」で歴史的、地理的な子ども兵の概要を、「第二部 なぜ子ども兵が存在するか」で子ども兵が利用される原因、徴兵される過程、訓練、子どもが兵士として使用されることによる影響等について、「第三部 子どもの兵士をなくすために」で子ども兵を使用させないための方策、子ども兵と戦場で遭遇した場合の対策、戦後処理として子ども兵を如何に社会に戻すか等が書かれている。

筆者は、子ども兵が使用されることによる紛争の長期化と社会の不安定化、そしてそもそも子ども兵を使用することの倫理的な是非を強く訴えかける。同時に、プラグマティックな視線も欠かさない。子ども兵を無くすには国家と市民の協力が必要だと訴えかける。ちょっと考えれば分かると思うのだが、成長期に戦争と言うか、人殺しが日常で人殺しのみを覚えて成人になったらどうなるのか。
特に子ども兵を使用する組織は、徴用に際し、脅迫・暴力を用い、同時に身内や知りあいを殺させるなどの儀式を通じて帰還を難しくする。そうして脱走を防ぎつつ、組織に一体感を覚えるよう訓練する。そして戦場では消耗品として前線に送られる。ひどい場合は武器もなしに単なる撹乱・囮として送り出される場合もあるそうだ。指揮官達にとって子ども兵は単なる消耗品に過ぎないから。詳しくは本書を手に取って読んでもらいたい。

子ども兵が徴用され、実戦に登用されているのは知っていたがここまでとは知らなかった。そして彼らを取り巻く環境のひどさも。特に、少年兵のみならず少女兵の悲惨は筆舌にしがたい。恐らく本書で分かった部分は一端に過ぎないのだろう。

テロ対策と言うとすぐに核だ、汚い爆弾だ、生物兵器だ、化学兵器だと吹き上がるが、現実にもっとも使用されているのは低価格の小火器なんだなあ、と言うのが分かる。これらに対する対策がおざなりになっている現状、途上国での低強度紛争は絶えず子ども兵の使用も継続されるのだろう。

反政府組織やならず者国家に関する事柄が多いため、本書で分かることは現状の氷山の一角に過ぎないのだろう、と思う。筆者も述べているように、今度平和維持活動などに関わっていく上で、子ども兵への対策は欠かせないものになるのだろう。

寒い時代だと思わんか。

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Future is mild:戦争請負会社

読書端末"Words Gear(ワーズギア)"の予約開始

松下の電子書籍端末"Words Gear"の発売が決定、予約が開始されました。Amazon.co.jp,楽天(三省堂) 松下の直販サイトパナセンス等で取り扱っています。予価は41,790円。先着にはブックカバーもついてくるそうです。
ワーズギア、書籍や動画などが楽しめる文庫本サイズの読書端末を発売 - CNET Japan コメントを見る
今回発売されるWords Gearは、高さ150.6mm×幅105mm×奥行き28.4mmという文庫本サイズの本体に、5.6インチワイドSVGA高解像度カラー液晶を備えた読書端末。
はっきり言って売れないだろうなあ、と言うのが俺の予想。賭けてもいい。Σブックと言う縁起のいい名前の松下の端末、ソニーのLIBRIe(リブリエ) に続く、失敗した電子書籍プロジェクトとして記憶されると思う。

PCとのデータの受け渡しはSDカードだけだし、RSSやPodcastにも対応していない。Σbook.jpで取り扱っている書籍を見たけど、とくに安いわけではない。ボーイズラブ小説やライトノベル、コミックなど若者向けの書籍を取りそろえている訳ですが、端末の価格を考えると紙の本を購入してブックオフに行った方が費用対効果は高いだろう。ビジネス書などの取りそろえが貧弱なのも痛い。TimebookTownが遥に素晴らしいサイトに見える。

そもそも未だ電子書籍を専用端末で読む、と言う習慣がない人にこの価格で販売するのはなあ。若い人達は携帯で読むだろうし。書店をそのまま持ち込もうとする発想が既に駄目なんだと思う。

あと、ワーズギアのサイト"最強☆読書生活"の作りも何とかならないものか。イメージキャラに真鍋かをりを起用したり、"マルチなマナベは片手で書斎を持ち歩く"と言うキャッチフレーズは、"またマナベか!"ぐらいの感想しかないし、どうでもいいんですが、フラッシュバリバリでポップアップウィンドウを利用して、ニュースリリースはPDFで、トップページにある"WHAT'S NEW"が読みにくい上にクリックしたら端末の予約ページに飛ばされるなど、"20世紀か!"と言った作り。書店ってレベルじゃねーぞ、と思いました。

いずれにせよ思想も設計も実装も古過ぎる、そんな風に感じました。

今頃"ウェブ進化論"を読んだ

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ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
梅田 望夫
筑摩書房 2006-02-07

by G-Tools , 2006/11/15

今頃読んだ(笑)

みんな話題にしてるし、著者のブログも読んでいるし急いで読むこたあないなあ、と思っていたら図書館においてあったので読んだ。

内容に関しては既に多くの書評がかかれているので特には無し。既に陳腐化している部分もあるし。

まあ基本的にはウェブを知らない世代への脅し含みの啓蒙とネット世代への激と言うところ。はっきり言ってしまえば煽りですね。敢えて暗い側面に触れない辺り21世紀の"ビーイング・デジタル"と言う感じ。

本書を以てネットのトレンドが全て分かる、と言うわけにはいきませんが、明るい側面を知る取っ掛かりにはいいんじゃないでしょうか。

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Future is mild:ビーイング・デジタル

mixiと第二世代ネット革命―無料モデルの新潮流

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mixiと第二世代ネット革命―無料モデルの新潮流
早稲田大学IT戦略研究所 根来 龍之
東洋経済新報社 2006-08
評価

by G-Tools , 2006/11/13

実はタイトルだけで手に取りました。恐らくネットをあまり知らない人向けに大げさにmixiとやらの魅力をあおり立てる本だと思い込んで。実は、調査と数値に基づく学術的良心的な本でした。ここのところ、トンデモ本を続けて読んだので安心して読めました。

プロローグでmixiの誕生から成長について述べ、第1部で調査に基づくmixiユーザーのコミュニケーションや消費行動についての記述。第2部でmixi,フォトハイウェイ、(旧)ライブドアを例にした無料サービスの収益構造について。

特に目新しい事は書かれていませんが、数字に基づいて誠実に書かれているので安心して読める。巻末のデータ集も便利かもしれません。

不道徳教育

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不道徳教育
ブロック.W 橘 玲
講談社 2006-02-03
評価

by G-Tools , 2006/11/09

割と期待して手に取ったんだけど、前文でため息をつき、頁をめくるたびに失望が増えていった。読み終えたときに感じたものは徒労のみ。
原著は30年前に書かれたもの。それを橘玲氏が"超訳"したもの。

本書の内容は一言で言うと"安い詭弁"。

あー、30年前ならそれなりに意味があったかもしれないが、現在では特に目新しい内容はない。インターネットを見回せばこの程度の詭弁はゴロゴロしているし。

で、本書の内容のどこに誤りがあるかというと、全て想像上のセカイで合理的に行動する人間をモデルにおいている点にある。実際の人間というのは本書で想定された人間よりもずっと愚かでずっと賢い。経済学者の想定など易々と飛び越えるのが現実の人間であり、現実の世界だ。
市場がシステムとして有効なのは言うまでも無いし、長い目で見れば市場は望ましい世界をもたらすだろう。だが、人の人生は短く、そんな結果を得られる前に命や財産に危険が迫ればそんな理屈は吹っ飛ぶ。この本は絵空事の世界の絵空事のヒーローについてかかれたものでしかない。

加えて訳者の"親切"が更に分かりにくくしている点は否めない。日米貿易を日中貿易に置き換えたら全然意味が違ってくるのは自明なのに。訳者注で書くぐらいなら最初から超訳しなければいいのに。麻薬に関する項でも、アッパー系である覚せい剤を表す隠語であるシャブを使う事によって、ダウナー系麻薬との整合性がとれていないし。はっきり言って"おせっかい"。

まあ、この本は挑発を意図して書かれたものだろうし、はっきり言ってしまえば"ネタ"の類いなんだろうけど、それにしてもあまりにも低レベル。まあ、本書のへ理屈で心が揺れるのが許されるのは中学生ぐらいまでじゃないだろうか?

そして言うまでも無く、30年経過してもリバタリアンが多数派を占めて国家を大幅に縮小した国家など無い事から、リバタリアンの考えが間違っている事が証明されている。市場は市場原理主義を支持しなかったんですよ。それでも市場原理主義を主張するのであれば、まずはセカンドライフ辺りで証明してみてはいかがだろうか?

ロボ鉄

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ロボ鉄
中野 栄二 ロボテツ取材班
バジリコ 2006-06-01
評価

by G-Tools , 2006/10/29

表紙で女子高生にロボットを持たせるなんてあざとい!と思っていましたが、福島高専分子生物学愛好会の方々だったのですね。失礼しました。

で、本書の内容とは言うと、様々なロボットコンテスト(以下ロボコン)に於ける優勝或いは注目となったロボットの製作に迫る、と言った感じ。こんなにロボコンがあるなんて知りませんでした。
取り上げられているロボコンは以下の通り。

その他コラムで以下のロボコンが紹介されている。 いずれもロボットに歴史アリと言うか、試行錯誤艱難辛苦の末の栄光と言うか一筋縄では行かないものだなあ、と言う感想。兄弟で栄光を掴んだ"うさぎのみみ"なんかいい話だなあ、と思った。

あと、furo古田所長の激痩せは異常だと思った。75kg→45kgってどんなけ痩せれば気が済むんだ。使用前使用後の顔写真の違いが凄い。別人かと思った。これを見せればロケットガールも倍増するかも知れない。

また、本の右隅に川村聡氏のシミュレーションのパラパラ漫画があるのは面白いと思った。なんかgifアニメみたいで。

俺は文系出身で、こう言ったロボコンはテレビで放映されるようなものしか知らなかったのだけど、最近はWebで様々な情報を得る事がで切る。が、まだまだ知らない世界が多いなあ、と思った。Robo-OneやRoboCupなんかは見た目の派手さもあって良く取り上げられるんだけど。こう言ったロボコンから第二第三のロボットの鉄人が現れるじゃないかと思うとワクワクしますね。

Web2.0殺人事件

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Web2.0殺人事件
岡部 敬史
イーストプレス 2006-10
評価

by G-Tools , 2006/10/29

このブログが凄い、の編者による"Web2.0"を分かりやすく理解してもらうための書籍。らしい。

中身はこんな感じ。

  • 第1話 ミクシィのアリバイ
  • 第2話 教えて!gooの暗号
  • 第3話 ブログ殺人事件
  • 第4話 はてなブックマークを解読せよ!
  • 第5話 口コミサイトと招待客
  • 第6話 YouTube誘拐事件

読んだ感想としては、赤川次郎っぽい。赤川次郎を最後に読んだのは10年以上前なんでその時の赤川次郎っぽいと思った。

まあ、ミクシィとか教えて!gooの話はほのぼの話と言う事で特に言うことも無し。敢えて言うなら、江戸時代に流行った頭文字読みが媒体を変えて今も使われている事に人類の進歩の素晴らしさを感じた。そう言えば俺は小学生の頃そんな文を書いたなあ。

第4話で、"はてなブックマーク"のあとに"はてなアンテナ"が出てくるところで吹いた。アンテナかあ。普通そこはRSSを持ってくるだろうに。

第3話と第4話は少年探偵団的と言うか、ずっこけ三人組的と言うか。現代警察を甘く見ていると言うか、まあ、警察が無能でないと探偵が活躍する余地は無いんだけどね。にしてもあまりにもトリックと言うか手口も捜査方法もなあ。ちなみに、第3話で登場するブログはこれの事か知らん。

私は毎日(のように)自動販売機の写真を撮っています。ごめんなさい。

ところでこの本は誰を対象として書かれたのだろうか?

まさか子供ではないだろうと思う。にしては雰囲気が思いっきりジョブナイル。なんかその辺がミスマッチに感じた。

正直な感想を述べると、Web 2.0を理解するのにも、純粋な読み物としても今一つ。筆者がWeb 2.0についてちゃんと理解しているかもはなはだ疑問に思った。

Web 2.0を理解したいなら、以下の本が分かりやすくてお勧めです。

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文系のための「Web2.0」入門
小川 浩
青春出版社 2006-08

by G-Tools , 2006/10/29

まあ、俺の結論を述べると、"Web2.0殺人事件"より、"続・インターネットの殺人"の方が面白くてお勧めです。

ロボットの天才

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ロボットの天才
ロボットクリエイタ-・高橋智隆
メディアファクトリー 2006-06-02
評価

by G-Tools , 2006/10/23

いやあ、この本、と言うか高橋智隆と言う人物は面白いですね。最初から最後まで飽きる事なく一気に読んでしまいました。今までもクロイノの受賞や、ロボカップにおけるチームOsakaでの活躍などは知っていましたが、特に京大に入るまでの過程や、受験や学歴に関する考え方などが面白かった。

にしても、今や押しも押されぬロボット業界の著名人である高橋氏だが、ほんの5年前はまだ進路に悩んでいたんだよなあ。

News:世界最強ラジコンロボ? 三洋もお掃除ロボット! ロボフェスタ神奈川2001(1/2)  
 磁力を利用した2足歩行ラジコンといえば,京商の「GUNWALKER」が有名だが,なんと,このMAGDANの技術が応用されているのだという。「進路についてアドバイスしてほしい」と話していた高橋さん。あなたは今すぐ,バンダイでザクの開発チームに加わるべきです。  
男子三日会わずんば刮目せよ、だな。

あと、やはりこの人のロボットのデザインはアニメの影響が大きいのだなあ、と再認識。FTを表して、「手塚の精神が形になったようなデザインだ(アナベル・ガトー)! 」と述べた人がいるが、自身も手塚からの影響が強かった事を表明している。面白いのは俺の世代はガンダムの影響が強いのだが、高橋氏はガンダムのデザインはまがい物でマクロスのデザインこそがリアルロボットだ、と書いていること。その割にはIMR-TYpe1のデザインに関して、モビルアーマーを意識していたり、ゾックを参考にしている辺りも面白い。

また本書を通読して驚いたのが高橋氏の活動範囲の広さ。援竜や上記のIMR-Type1等も手がけているとは。先日発表された松下のパワーアシストスーツにも関わっているんじゃなかったけ。

そして彼のデザインに関する徹底的なこだわりも凄いと思った。FTのウォーキングやポージングについてはもちろんの事、クロイノやネオンの目の構造、立った時の姿勢のこだわり等普通の工学者では気がつかないところに目が行き届いており、なんというか、スティーブ・ジョブスに通じるものを感じた。

まあ、なんかとッ散らかった事を書きましたが、とにかく高橋智隆と言う人物は面白く、これからも目が離せないな、と言う事。あとがきでブログのように書く事を心がけた、と書かれているが、ほんとブログ感覚で読む事が出切る。そして本書はロボット工学に興味がある人も無い人にも等しくお薦めできる書籍だ。

関連リンク

高橋智隆のマイルーム[ROBOlep]
ROBO GARAGE [ ロボ・ガレージ ]

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京商から可愛いロボットキット"マノイ"
“世界一美しい”女性型ロボット「FT」発表

ロボットと暮らす

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ロボットと暮らす 家庭用ロボット最前線
大和 信夫
ソフトバンククリエイティブ 2006-05-15
評価

by G-Tools , 2006/10/16

ヴイストン株式会社代表取締役大和信夫氏による書き下ろしの一冊。実際にロボットで飯を食っている人間らしく、夢と現実が同居している内容で久しぶりに読みごたえのある一冊でした。

大和氏はロボットビジネスの最前線に立つ一方、技術者ではないので単純に技術による解決をよしとしない姿勢が良い。例えば、本書の中では家庭用ロボットについて単純に家事を肩代わりすればいいと言うものではないと言う事が懇々ととかれている。洗濯とは、単純に衣類の汚れを落とす事ではなく、衣類を収集し、汚れを落とした後干して乾燥させた後所定の位置に戻すまでの一連の作業を指す、と言う主婦の指摘には目からうろこが落ちた。ただし、俺は一人暮らしの時は部屋に洗濯ロープを張ってそこから直接着替えをとっていた事を思い出す。この辺は、アイロン不要のシャツと同じく人によってニーズが異なるのかな、と思う。

ロボット技術が今後どの様に向かうかは正直言って分からない。家電や住宅そのものにビルトインされるのか、或いは全く新しいものが出てくるのか。ロボットと暮らす事によってある問題は解決されるだろうが、きっとまた新しい問題が生じるだろう。

本書はそう言った課題にある程度答えてくれるし、考えるヒントにもなる。

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ロボット進化論―「人造人間」から「人と共存するシステム」へ

珍しいグーグルで検索してもAmazon.co.jpがトップに表示されない書籍。
タイトルだけで手にしました。オーム社の坊ちゃん選書と言う事で、理科好き中高生向けになっています。

東京理科大学小林宏助教授に対して科学ジャーナリストの石川憲二氏が質問すると言う体裁をとっており、内容的には大変読みやすいものの、ちょっと深みにかけると言うか補足が欲しいな、と思うところもしばしば。例えば、顔ロボットのコンセプトをパクられた話が出てくるのだけど、小林先生の愚痴だけでなく工学的な比較とかビジネス的な比較等も出てくればもっと面白かったかな、と。

で、本書では小林助教授の生い立ちやロボットを志した経緯、研究者になってからの歩み、現在開発中のロボットについての説明、そもそもロボットとはなんぞやと言う問いに対する小林先生の考えなどが分かりやすく書かれており、成程、これなら中高生にも分かりやすいと思った。

小林助教授は割とアンチ二足歩行な方で、こう言う研究にももっと陽が当ればなあ、と思う。これは余談だが、元カーリング選手や棋士、元野球選手に同姓同名の人がいるのでネット的にはちょっと損しているんじゃないかな、と思った。

あと、巻末でもいいので、関係するサイトのURLを記載しておけばいいのに、と思う。

関連サイト

Kobayashi Lab.
日本ロボティクス

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ロボット技術者になるには

明日は誰のものか イノベーションの最終解

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明日は誰のものか イノベーションの最終解
クレイトン・M・クリステンセン スコット・D・アンソニー エリック・A・ロス
ランダムハウス講談社 2005-09-16

by G-Tools , 2006/10/01

"イノベーションのジレンマ"、"イノベーションへの解"に続くクリステン教授によるイノベーション三部作最終章。
今回のお題は教育業界、航空業界(航空会社、航空機製造会社)、半導体業界、ヘルスケア業界、通信業界です。

内容的には、良くも悪くも前2作を踏襲しており、はっきりいってしまえば前2作を読んでいれば特に読まなくてもいいんじゃないかと思う。確かに内容は精度が高くなっているが、経営学の学生以外には不要かな、と思う。(内容と分量から"イノベーションのジレンマ"をお勧め)

あと気になったのは翻訳の固有名詞のおかしさ。ザイリンクスはジリンクスと書かれているし、ベライゾンはベリゾンに、アイタニウムはイタニウムと言った具合に。あとブラックベルトは黒帯って書いた方がいいと思った。他にもあげればキリがない。
あと言うまでも無いけど、通信業界と半導体業界についての章は既に時代遅れになっている。変化が早過ぎるせいなんですが。

世の中には経営もしていなければ勤めてもいない会社のビジネスモデルについて考える勉強会なんていうものがあるらしいので、そう言うのが好きな人にはお勧め。

関係ないけど、Amazon.co.jpのレビューに現ライブドア社長の平松氏の名前が合って笑った。本人?

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イノベーションのジレンマ
イノベーションへの解

ガンプラ開発真話

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ガンプラ開発真話
猪俣 謙次 加藤 智
メディアワークス 2006-03-17

by G-Tools , 2006/09/20

Amazon.co.jpのレビューとか見る限りそんなに評価高い訳じゃないけど、俺は楽しんで読めた。もろガンプラ世代だし。

内容はと言えば、ガンプラ前のバンダイの模型事業と、版権を得るまでの苦労話やボックスアート関連、ブーム後の生産や営業の苦労話と言った、どちらかと言えばバンダイの功績を褒めそやすための本。元々、新工場設立記念に関係者に配る本を、と言う企画だったらしいし。

どう見ても労働基準法違反だろうよ、と言うような労働条件等を割と美化しているけど、それをさっ引いても面白かった。
本の中で登場する、模型屋を見張る少年ってもろ自分たちだったわけで。少年時代の「事件」を大人の目でまとめ上げた感がする。
受けたのが、「プラモ狂四郎」の中の、ザクの足首の関節が曲がらないエピソード。 ちょうど連載中に読んだ俺としてはこれがちゃんと取り上げられていることがうれしかった。

いつか、静岡のバンダイホビーセンターを訪れたい、と読後に思った。

第九の日

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第九の日 The Tragedy of Joy
瀬名 秀明
光文社 2006-06-21
評価

by G-Tools , 2006/09/18

瀬名秀明氏による『ケンイチくんシリーズ』の第2弾。前作『デカルトの密室』の前のエピソードとなる"メンツェルのチェスプレイヤー"の他、"モノー博士の島"、"第九の日","決闘"の4篇からなる中短編集となる。

読書好きの人ならピンときたかもしれないけど、ポォ、ウェルズ、クィーンへのオマージュとなっている。正直言うと、クィーンに関してはBK1の説明読むまで気がつかなかったけど。

本書も『デカルトの密室』と同様、"知性"や"意識"とは何か?と言うテーマが根底に流れており、そう言った事柄に関して知的好奇心が無い人には少々取っつきにくいかもしれない。特に、『第九の日』にはそれにキリスト教まで加わるから尚更。
そう言えば、いっとき瀬名氏のブログでやたらC・S・ルイス(ナルニア国物語の作者)が取り上げられていたが、本書を読めばそういう事だったのかと言うのが分かる。
また、現代テクノロジーのちょっと先のテクノロジーを取り扱っておりで、例えば、『決闘』ではBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)が取り上げられている。そう言った意味でSFと現代小説の境界辺りに位置しているのかな、と思う。

『第九の日』は終わり方がちょっと救いが無い感じで、これで終わっていたらちょっと読後感がよろしくなかったが、『決闘』で救済された感じ。個人的には『決闘』が一番好きな一遍。ちょっとそれまでとは毛色が違うけども。

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デカルトの密室
ロボット・オペラ
科学の最前線で研究者は何を見ているのか

9条どうでしょう

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9条どうでしょう
内田 樹 平川 克美 小田嶋 隆
毎日新聞社 2006-03
評価

by G-Tools , 2006/09/17

まず、最初に断っておくと大変面白い本であった。内田樹他、平川克美小田嶋隆町山智浩、と言う濃い面々よる憲法論、主に9条の是非についての本。

いずれも法学者、憲法学者ではなく、内田氏は思想家哲学者だし、小田嶋氏は(戦う)コラムスト、町田氏は映画評論家で軍事オタク、平川氏はlinux cafeの人。

ガチガチの法学者なら決して出せない結論、論法を出すのは4氏が業界のドグマから自由であるからだろう。特に小田嶋氏の9条改正案には胸がすく思いがした。必読。

最近の憲法改正論は『現実にあわない』か、『押し付けられたから』と言う論が先立っており、極めて感情的な、いやむしろ宗教的と言った感を受けるためにかなり胡散臭く感じているのだが、この本はそれらに対する見事なカウンターを放っている。当っているかどうかは別にして。

例えば憲法をテーマにした大学のゼミに教材にも適しているのではないだろうか。

にしてもAmazon.co.jpの頭の悪いレビューはどうにかならんかなあ、と思った。

参考リンク

内田樹の研究室 2006: 『九条どうでしょう』プレミアム試写会 コメントを見る

戦争請負会社

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戦争請負会社
P.W. シンガー Peter Warren Singer 山崎 淳
日本放送出版協会 2004-12
評価

by G-Tools , 2006/09/10

うわー、何で俺はこれを読んでいなかったんだろう、と読後後悔させられた一冊。少なくともイラク戦争前には読んでおくべきだった。

本書では、従来の"軍産複合体""死の商人"或いは"戦争の犬たち"と言ったビジネスが、現在どの様な変容を遂げているか、どの様な歴史的背景を持っているかを詳細に記述している。

冷戦の終結による軍事費の削減、安価で放出される大量の兵器と、解雇された兵士達、戦時業務の外注化。超大国による介入(或いは援助)が激減した結果産まれた軍事的空白。それらを埋めるように伸長してきた"軍事請負会社"。
豊富な事例と数値的裏付けを以て、これらの産業がどの様に戦争に関わってきたのか、どの様に成長してきたのか、どの様な位置づけにあるのかを分析している。また、軍事請負会社をその業務にそって、軍事役務提供業者、軍事コンサルタント会社、軍事支援企業に分類し、代表的な企業とその沿革、構造について明らかにしている。

また、PMFを悪でも善でもなく、純粋に企業体としてその問題点、効用について論じており、考えさせられる部分が多い。

米軍を中心とした"有志連合"占領下のイラクにおいて、実は米軍についで数の多い軍事請負業者(PMF= Private Military Firms/PMC=Private Military Company)。チェイニー副大統領がCEOを勤めていた事で知られるハリバートン社の子会社の他、無数のPMFが活動している事実。

国際関係及び戦争の現実を考える上で外せない一冊だろうと思う。

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戦争民営化

ガセネッタとシモネッタ

stars ガセネッタ&(と)シモネッタ

ロシア語通訳の大家(らしい)筆者による、主に言語に関わる事柄を集めた軽めのエッセイ。Amazon.co.jpの書評を見る限り、書き下ろしに比べるとイマイチ、と言う感想が多いようだが、俺には十分面白かった。
ってことは、書き下ろしはもっと面白いってことですか!
それはさておき、二つの文化圏に身を置く筆者のものの見方というのは非常に面白い。
どうしても普段目にするロシアの情報というのは政治や経済絡みで、プーチンのような政治家か、生活苦の年金生活者等ニュースのネタになるような人物が多い。この本で描かれるのはごく普通の人達が多く、ロシアに対する印象というのが大きく変わった。

俺が自分がMacを使ってて良かった、と思うのはWindowsばかり使っていては気づかない様々なことに気がつくこと。どうしてもモノカルチャーに身を浸すと考え方まで規定されてしまう。
さすがに社会まで生まれ育ったところと別のところに身を置くのは難しいが、せめてWebサービスやOSぐらいはオルタナティブな見方を身につけたいですね。

hReview by tomozo , 2006/08/01

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する

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グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書 (501)
佐々木 俊尚
文藝春秋 2006-04
評価

by G-Tools , 2006/07/28

"ザ・サーチ"を読んでいたので、特に目新しいことはありませんでしたが、グーグルについての概要がさっと分かる本。良い入門書だと思います。

特に、実際にGoogleのAdwords広告を利用している事業者羽田の駐車場業者、隅田川の屋形船についての事例は、身近でわかりやすいんじゃないでしょうか。ちなみに、隅田川の屋形船はテレビのニュースでも取り上げられていましたね。ワールドビジネスサテライトだったかしらん。

もちろん、単純なグーグル礼賛でなく、影の部分、所謂グーグル八分やクリック詐欺についてもちゃんと取り上げている。

なんでたかだか検索サイトがこれだけ話題になっているのか分からない人には是非手にとってもらいたい。そして続いて"ザ・サーチ"を読まれることをお勧め。

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ザ・サーチ/グーグルが世界を変えた
検索エンジン戦争

アゴタ・クリストフ/文盲

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文盲 アゴタ・クリストフ自伝
アゴタ・クリストフ 堀 茂樹
白水社 2006-02-15
評価

by G-Tools , 2006/07/24

「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」で知られるハンガリーからの亡命作家の自伝。ハンガリーから逃れて、スイスに亡命・移住し、やがてフランス語で出版するに至るまでを淡々とつづっている。自伝と言っても、チューリヒの新聞に連載されていたエッセーを集めただけのものであり、およそ30分ほどで読み終えた。だがしかし、あの三部作を書くに至ったその道のりは十二分に感じ取ることができた。

最近では、小説というかフィクションをあまり読まない俺で、件の三部作も大学時代に読んで激しく衝撃を受けたのだけど、なんというか、亡命者が、母国語ではない言葉(クリフトフの言葉を借りれば敵性言語)で書いた小説というのはなぜか心にしみいるものがある。ミラン・クンデラとか好きです。

本書によると、残念なことに次の出版の予定はないそうだ。なんか老後の楽しみが一つ減ったという感じがする。

悪童日記 (ハヤカワepi文庫) 第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)


ここでばーんと、三部作の表紙を並べようと思ったのだけど、悪童日記以外はAmazon.co.jpに表紙のイメージがないらしい。と、思ったらBK1にはありました。

秘密結社の世界史

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秘密結社の世界史
海野 弘
平凡社 2006-03-11

by G-Tools , 2006/07/18

秘密結社・・・・・・なんという甘美な響きでしょう。多くの人が憧れ焦がれ続けた"秘密結社"。フリーメーソン、薔薇十字団、テンプル騎士団等々。

ちょっと前なら「X-ファイル」、最近では「ダ・ヴィンチ・コード」の世界的ヒット等を鑑みても、多くの人が政府や企業などの表の権力とは別に世界を動かす伏流としての権力というものの存在を固く信じているのでは?と言う感想を抱きます。
秘密結社は決して過去のものではなく、ブッシュ大統領も所属していたというスカル・アンド・ボーンズという社交クラブもやはり陰謀論という文脈で秘密結社扱いされていたりするわけで、やはりみんな陰謀論大好きだなあ。

本書は、それら"世界を裏から操っている"秘密結社について、時系列で解説してくれてくれるいわば秘密結社史の入門書。秘密結社の性格の変遷から、革命との関係、科学技術との関係等、個々の秘密結社について断片的な知識はあったものの、体系的には知らなかったのでいいとっかかりとなった。陰謀論大好きな人にもお勧めの秘密結社史の入門書です。ちょっと東洋の秘密結社に関する記述が少ないのが不満と言えば不満か。

ロボット業界最前線の28人が語る!ロボットの現在と未来

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ロボット業界最前線の28人が語る!ロボットの現在と未来
鴨志田 英樹
エクスメディア 2005-12
評価

by G-Tools , 2006/07/12

子供たちに科学教育を教えるロボット科学教育の鴨志田氏がロボット技術の最先端にいる28人と対談すると言う内容。第一部は早稲田大学高西淳夫氏、千葉工業大学未来ロボット技術研究所(furo)古田貴之氏等おなじみの面々が生い立ちやロボット工学と関わるきっかけ、現在の研究、ロボット観について語る。

第二部が面白かった。現在ロボットベンチャーが幾つかあるが、テムザック、ヴイストン等に現在のビジネス、将来の展望について聞いている。Robot Watchのインタビュー企画と併せて読みたい。あと、AIBOに関連する項目は、涙なしには読めない。

第三部は、ロボット事業を推進する自治体の担当者、福岡や大阪市の取り組みについて。どのような思いを抱いて、どのように取り組んでいるか。あと、東北大学の教授達による座談会が面白かった。ダンスパートナーロボットについてを読みながらにやにやしてしまった。

前半は、以前読んだ"ロボット技術者になるには"と非常に似通っていたが、後半以降のロボットビジネスや、自治体の取り組みについての項はかなり新鮮。特にテムザックがロボットビジネスに関わるきっかけなど興味深い。

現在と未来のロボット工学に興味がある人にはお薦めの一冊。

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ロボット技術者になるには

ブルックスの知能ロボット論

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ブルックスの知能ロボット論 - なぜMITのロボットは前進し続けるのか?
ロドニー ブルックス Rodney Allen Brooks 五味 隆志
オーム社 2006-01
評価

by G-Tools , 2006/07/08

非常に面白い本だった。MITのコンピュータ科学・人工知能研究所所長による、自伝的な内容も含めたロボット・人工知能論だが、素人にも読みやすくかかれており、彼の思考の一端に触れる事が出来る。内容は以下の通り。
  1. 機械達との饗宴
  2. 人工生物の実現を目指して
  3. 惑星間の大使達
  4. もうすでに二〇〇一年
  5. 人間と住む機械
  6. 私達はいまどこに?
  7. 人間はユニークな存在か?
  8. 私達は特別な存在ではない
  9. 彼らと私達
  10. 私達と機械達
付録 ゲンギスロボットの動作原理
オーストラリアの片田舎の工作少年がやがて成長し、大学でロボットを学び、ゲンギス(Genghis)と言う昆虫ロボットを作製する。今までの、全てを処理しようとする設計に替って、昆虫のような単純な処理を積み重ねるようにして、まるで生物のようなロボットを実現する。その応用による火星探査ロボットの成功。それからヒューマノイドへ移り、"cog"やキズメットを作り、人間がそれらのロボットに"意識"を感じる様を描く。
Hasbro社と共同開発した"My Real Baby"の苦労話。
ロボットは意識を持つのか?と言う命題。そしてこれからのロボット産業の見通し、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)など人間のサイボーグ化について。

ホンダに招聘されたエピソードなどもあり興味深い。割とメカトロニクス先行の日本のロボットについて批判的な記述も目立つ。もう一つ興味深かったのが、ロボットが"意識"を得るために、身体性が必要だと言う認識。ちょっと思い出せないが、日本のロボット工学者も同様の事を言っていたはず。こっちはフィクションだが、瀬名氏の"デカルトの密室"に通じる問題意識もある。

ちょっと自慢めいた苦労話も含め、非常に興味深い内容だった。ロボット工学に興味を持つ人にはお勧めの一冊。

ただ、原著が2002年出版なので内容的に古い部分が目立つ。なんでこれが日本の出版までに4年もかかるのか。残念でならない。

あと、これはひどいと思ったのは、"ネアンダール猿人"と言う翻訳と、P.47の"サン・マイクロシステムズ社の社長スティーブ・ジョブス"と言う記述。原著に誤りがあるのか、翻訳ミスなのか分からないが、幾ら何でもこの間違いは無いだろうと思った。

それにしてもこう言った教授と会話を交わせるrobo@survivorさんは羨ましいな、と思った。

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「R2-D2を作りたかった」iRobot創設者、夢への道のり

アイザック・アシモフ コンプリート・ロボット

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コンプリート・ロボット
アイザック アシモフ Isaac Asimov 小尾 芙佐
ソニーマガジンズ 2004-08
評価

by G-Tools , 2006/06/25

最近では、"トリビアの泉"の冒頭に登場するおじさんと言う理解をされているだろうアイザック・アシモフ。言わずと知れた、"ロボット工学三原則"の提唱者であり、古典SFの大家である。
そのアシモフの"ロボット物"の31篇を集積したのが本書。
収められているのは以下の通り。発表順ではなく、ロボットの分類に寄っている。また、共通の登場人物が多く、年代順に読み解く事が出来る構成となっている。
序文

第一章 非ヒト型ロボットたち Some Non-human Robots
親友 A Boy's Best Friend
サリーはわが恋人 Sally
いつの日か Someday

第二章 不動型ロボットたち Some immobile Robots
物の見方 Point of View
考える! Think!
ほんとうの恋人 True Love

第三章 金属製のロボットたち Some Metallic Robots
AL76号失踪す Robot AL-76 Goes Astray
思わざる勝利 Victory Unintentional
かくて楽園にあり Stranger in Paradise
光の詩 Light Verse
人種差別主義者 Segregationist
ロビイ Robbie

第四章 ヒト型ロボットたち Some Humanoid Robots
みんな集まれ Let's Get Together
ミラー・イメージ Mirror Image
三百周年事件 The Tercentenary Incident

第五章 パウエルとドノヴァン Powell and Donovan
第一条 First Law
堂々めぐり Runaround
われ思う、ゆえに……  Reason
野うさぎを追って Catch That Rabbit

第六章 スーザン・キャルビン Susan Calvin
うそつき! Liar!
お気に召すことうけあい Satisfaction Guaranteed
レニイ Lenny
校正 Galley Slave
迷子のロボット Little Lost Robot
危険 Risk
逃避 Escape!
証拠 Evidence
災厄のとき The Evitable Conflict
女性の直感 Feminine Intuition

第七章 二つの頂点 Two Climaxes
世のひとはいかなるものなれば…… That Thou Art Mindful of Him
二百周年を迎えた人間 The Bicentennial Man

おわりに
謝辞

この中では、やはりロボット心理学者スーザン・キャルビン博士の物語が一番面白い。死してなお作品に存在感を残す彼女はアシモフの連作の中でも別格だ。中でも、冷酷な人物と描写される彼女の人間性が浮かび出る作品、"うそつき! Liar!""レニイ Lenny"が俺は好きだ。
また、これも定番中の定番だが、子守ロボットと少女の友情を描いた"ロビイ Robbie"も素晴らしい物語だと思う。
アンドリューNDR114 また、アシモフ自身が一番好きな作品といい、映画化もされた作品"二百周年を迎えた人間"。映画も良かったが、この短編も良い。出来れば映画と見比べてみると更に面白いんじゃないだろうか。ちなみに映画は"アンドリューNDR114"。

アシモフと言うと、ジョブナイルものも含め昔から何度も読んでいるので、もうすっかり理解している気になっていたが、改めて読んでみると、本当に優れた洞察と予見を含んでいるのだなあ、と言うのが分かる。
例えば、ロボット工学三原則に関しては、フレーム問題云々と言う事が良く言われている。実はアシモフ自身が、その命題に対してアンチ・ユートピア的な皮肉を含んだ一遍を書いていることを知らなかった("世のひとはいかなるものなれば……That Thou Art Mindful of Him")。また、アシモフ作品と言うのはスタートレックと並んで欧米におけるロボット開発状況を知る際に、必須の教養と言う気がする。
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