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インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門
白田 秀彰
ソフトバンククリエイティブ 2006-07-15
評価

by G-Tools , 2006/12/04

副題に"かなり奇妙な"と入っているが、非常にまっとうな主張に思えた。これは単に俺がネットずれしているだけだろうか。

HotWired Japanに連載されていた同名の連載に加筆・修正したもの。2003年5月に第一回が始まっているので、内容的には少々古い面(2ちゃんねるが主流でブログは影しか見あたらない等)も感じるが、その主張は色あせてはいないのが素晴らしい。知財に関わる話や、匿名・顕名の問題については今も続いているわけだし。

平易な語り口で法の基本的な部分(英米法と大陸法の違いなど)を語り起こしているので、法の基礎的な知識が欠けている人にもお勧め。

なお、興味を持った人はまずウェブ版をチェックしてもらいたい。
お勧めはポリシー・ロンダリングと知的所有権に関する回かな。

第5回 知的財産権制度と封建制について
馬に乗って旅を続けるあなたの目前に一面の野っぱらがあったとしよう。やっぱり馬で近づいてきたオッサンがあなたに「ここは領主ウィリアム・ゲイト様の土地なり。ここから先に進むことは許さん。早々に立ち去るがよい!」と言ったとしよう。そこであなたが、(A)「何をいってんの?この人」と思うか、それとも(B)「ああ、そうか、じゃ出て行かなきゃ」と思うか。土地に基礎を置いた文明をもつ「くに」を基本として考えるなら、(A)は野蛮人で(B)は文明人。私たちは文明人だから(B)の考えをそれほどヘンテコだとはおもわないだろう。
第9回 メンドウな事態とポリシー・ロンダリング
で、ポリシー・ロンダリングは新造語なんで確定的な定義はないけど、次のようなものだろう。ある政策が必要だと政府が考えている。でも、さまざまな法律や制度や国民の意識等によって議論が紛糾することが確実であり、実現困難であることが予想されるとする。でも、どうしてもその政策を実現したいと考えたとき、どうするか。そこで舞台を外交や国際機関に移してしまう。同じような政策の実現を目指しているにもかかわらず、同じように議論が紛糾して困っている国の代表をどこかに集める。で、国際条約とか、国際合意とか、国際行政協定とかそういった国際的なレベルでの合意事項にしてしまう。

インターネットと法と言えば、この行為は合法か否か、と言った場当たり的な技術論が多いわけですが、本来は法目的を考えた上で合理的か否か、と言う判断が必要です。本書はレッシグ教授の著作と並んでそう言った思想を持った本と言えるでしょう。

ただ、やはり法知識がない人にも分かるように書かれているため、やや浅いと思うところもあるのも事実。できれば、本書を契機として、"CODE"や"コモンズ"に並ぶ次回作を期待したいところ。

あと、これは余談なんですが、先日読んだ"2ちゃんねるで学ぶ著作権"にも突っ込みを入れてますね。
ご冗談でしょう、牧野先生
ところが、読んでて「?」と思うようなところも散見された。著作権法に関する議論は、不確定かつ微妙なものが多く、さらに論者が依拠している理論的立場からも考え方が変わったりする。とはいえ、そんなことをゴニャゴニャ説明していたら、読者にはなにがなんだかわからなくなる。そういう意味で結論を(あるていど)断定しながら進めることになる対話体の本書に取り組んだ牧野先生は漢(おとこ)だと思う。

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