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子ども兵の戦争
P.W. シンガー Peter Warren Singer 小林 由香利
日本放送出版協会 2006-06

by G-Tools , 2006/11/25

『戦争請負会社』で一躍名を知らしめたP.W.シンガーの新作。テーマは子ども兵。

俺はNewsweek(日本語版)なんかを購読しているので、時々アフリカの子ども兵の写真を見る。また、本書に登場するミャンマーの武装組織"神の軍隊"の双子の指揮官だった、ジョニー・フトゥとルター・フトゥの有名な葉巻を吹かす写真も見た。こういうものを見るたびに切なさを覚えたものだった。 なお、フトゥ兄弟についてはこちらが詳しい。

ミャンマー:犠牲者としての武装集団の少年リーダー
ジョニーとルターのフトゥー兄弟が今週、ミャンマー(ビルマ)国境のタイ西部で投降し、タイ当局者に手を引かれて出てきた。その姿はミャンマーの武装勢力のリーダーというより、行方不明になっていた13歳の少年たちのようだった。

本書は大きく三部構成となっており、「第一部 戦場の子どもたち」で歴史的、地理的な子ども兵の概要を、「第二部 なぜ子ども兵が存在するか」で子ども兵が利用される原因、徴兵される過程、訓練、子どもが兵士として使用されることによる影響等について、「第三部 子どもの兵士をなくすために」で子ども兵を使用させないための方策、子ども兵と戦場で遭遇した場合の対策、戦後処理として子ども兵を如何に社会に戻すか等が書かれている。

筆者は、子ども兵が使用されることによる紛争の長期化と社会の不安定化、そしてそもそも子ども兵を使用することの倫理的な是非を強く訴えかける。同時に、プラグマティックな視線も欠かさない。子ども兵を無くすには国家と市民の協力が必要だと訴えかける。ちょっと考えれば分かると思うのだが、成長期に戦争と言うか、人殺しが日常で人殺しのみを覚えて成人になったらどうなるのか。
特に子ども兵を使用する組織は、徴用に際し、脅迫・暴力を用い、同時に身内や知りあいを殺させるなどの儀式を通じて帰還を難しくする。そうして脱走を防ぎつつ、組織に一体感を覚えるよう訓練する。そして戦場では消耗品として前線に送られる。ひどい場合は武器もなしに単なる撹乱・囮として送り出される場合もあるそうだ。指揮官達にとって子ども兵は単なる消耗品に過ぎないから。詳しくは本書を手に取って読んでもらいたい。

子ども兵が徴用され、実戦に登用されているのは知っていたがここまでとは知らなかった。そして彼らを取り巻く環境のひどさも。特に、少年兵のみならず少女兵の悲惨は筆舌にしがたい。恐らく本書で分かった部分は一端に過ぎないのだろう。

テロ対策と言うとすぐに核だ、汚い爆弾だ、生物兵器だ、化学兵器だと吹き上がるが、現実にもっとも使用されているのは低価格の小火器なんだなあ、と言うのが分かる。これらに対する対策がおざなりになっている現状、途上国での低強度紛争は絶えず子ども兵の使用も継続されるのだろう。

反政府組織やならず者国家に関する事柄が多いため、本書で分かることは現状の氷山の一角に過ぎないのだろう、と思う。筆者も述べているように、今度平和維持活動などに関わっていく上で、子ども兵への対策は欠かせないものになるのだろう。

寒い時代だと思わんか。

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