AppleがPowerPCからIntel製チップに移行するというニュースは大きな話題となった。移行の理由としては、PowerPCがAppleのニーズを満たせなくなった、と言う見方が通説だ。

代表的なのが後藤氏による以下の解説だろう。

後藤弘茂のWeekly海外ニュース:なぜゲーム機はPowerPCに、パソコンはx86に偏るのか コメントを見る
また、Enterprise Watchでは、IBM側からの見方として、価格が重要だった、と言う発言を紹介している。
InfoStand 海外ITトピックス:Appleの世紀の決断には、選択の余地がなかった? コメントを見る

俺も当初はそういう見方をしていた。が、何となく違和感を感じていたのも事実。

きっかけとなったのはこのコラム。

アップルのインテルチップ採用を最初に予言した人 - ZDNet Japan コメントを見る
このコラムでは、AppleのIntelチップを最初に予言した人をDavid Coursey氏としている(その記事(ZDnet.com:Macs with Intel inside? You bet! Here's how)はこちら。日本語訳記事は大人の事情で消失)。

これを読んで、本当に最初に(公式に)予言したのは"アンドリュー・ネフ"氏だと思い至ったことが違和感の原因だ。ちなみに、アンドリュー・ネフ氏はベア・スターンズ社のアナリストで、HPによるCompaqの買収を予言した人。

で、2002年を起点に、Apple,Intel,IBM関連のトピックを時系列に並べてみたところ、通説とは異なる結論に至った。

AppleとIntelの提携は2002年頃にはじまっていた。

IBMはPowerBook G5を作れなかったわけではなく、作らなかったのだ。

2002年には既に、アップルとIBMは別れを決意し、それぞれの新しい恋人(Intelと次世代ゲーム機)との結婚までの間、仮想結婚を続けていたにすぎないと言う仮説。

以下、検証。

Apple,Intel,IBMのトピックス

日付場所・媒体内容
2001/3/12SCEI,東芝,IBMの三社が次世代汎用プロセッサーの開発で合意
2002/5/6WWDC2002"Jaguar""発表
2002/6/5アンドリュー・ネフ氏が今後4,5年の間に80%の確率でアップルがインテルチップ採用すると予測
2002/8/24"Jaguar""発売開始
2003/6/24WWDC2003PowerMac G5登場
"Panther"発表
2003/10/24"Panther"発売
2003/10/28IDG"ジョブズが納得すれば、Intel VanderpoolチップでMacOSは動く" コメントを見る
2003/11/4CNET"米マイクロソフト、次期Xboxに米IBM製チップ採用" コメントを見る
2003/11/6CNET"「プロセッサなら、間に合ってます」:S・ジョブズ、米インテルをソデ" コメントを見る
2004/4/7Pentium M発表
2004/6/29WWDC2004"Tiger"プレビュー
2004/12/8IBM、PC事業を売却
2005/1/21CNET"インテル、仮想化技術「Vanderpool」の実装を前倒しへ" コメントを見る
2005/2/3CNET"PowerBook G5の登場をはばむものは何か" コメントを見る
2005/3/4CNET"アップルのマシンも、実は「インテル、入ってる!」" コメントを見る
2005/4/29"Tiger"発売
2005/5/15〜E3 2005IBM製チップを搭載した次世代ゲーム機が発表に
2005/5/24WSJアップルがインテルチップを採用する噂を報道
2005/6/4CNET"アップル、IBMを見限る--Macにインテル製プロセッサを採用へ"
2005/6/7WWDC2005Appleがインテルチップの採用を発表

この仮説のキーワードは、"次世代ゲーム機"、"Vanderpool"、"Mac OS X for Intel"だ。

IBMは本当に3GhzPowerPC G5,PowerBook G5を作れなかったのか?

Cellは4Ghzで動き、Xbox360向けも3.2Ghzで登場するのにあたり、IBMは本当に3Ghz超のPowerPC G5を作れなかったのかと言う疑問が残る。
Xbox360が開発マシンとしてPowerMac G5を採用していることを考えると、逆も可能なのでは?と言う疑問が残る。また、電圧を下げることによって、PowerBook向けのCPUも可能だったのでは?

CNETは観測気球か

2005年以降のCnetの記事には、不思議なことにAppleとIntelの親和性を説く記事が出る一方、PowerPC G5にネガティブな印象を与える記事が出ている。特に、"PowerBook G5の登場をはばむものは何か"と言う記事では、PowerBook G5の登場を匂わせながらも、なぜか現在PowerBookに採用されているG4チップを製造しているFreeScale社には全く触れていない。

これら一連の記事は、観測気球或いは地ならしだったのかもしれない。

俺の記憶が確かなら、Cnet Networks社にはかつてIntelが出資していたはず(現在は確認がとれなかった)。

WWDC6月開催の謎

WWDCが2002年までは5月に開催されていたのが、2003年以降6月開催となっているのも興味深い。これは、E3において、次世代ゲーム機へのIBM製チップの搭載が発表された後にIntelプラットフォームへの移行を発表することにより、IBMへの打撃を和らげようとしたのではないだろうか? 表向きは、"Panther"の準備のためだが、それならば2004年以降も延期となる理由にならない。

Vanderpool実装の前倒し

また、"Vanderpool Technology"にも注目したい。 2003年10月28日にインテルのCEOクレイグ・バレット氏はインタビューに答え、以下のように発言している。

Mac OSとLonghornを同時に使って、ビジネス用にはLonghornを、Mac OSを個人用に使うことも可能だ。しかし、その前に、こいつがいいアイデアだということをスティーブ・ジョブズ氏に納得させなければならない
(中略)
AppleにIntelベースのシステムをリリースさせることができるかどうかという質問に対し、バレット氏は「いまも取り組んではいるが、率直に言って年々関心がなくなりつつあるのは確かだ」と答えた。

2003年11月には、同様にS・ジョブスもインテルチップの採用に否定的な発言を行っている。

そして、Intelは2005年に入り、"Vanderpool Technology"の実装を前倒しにすることを発表する。

Intel版MacOS X はいつから開発されていたのか?

登場時から・・・というのが公式解だが、俺はIntel版Mac OS Xの開発が本格的にはじまったのは"Jaguar"以降だと推測している。と言うのも、10.0は良くて公開β版の出来、10.1でようやくまともに動作し、10.2"Jaguar"で他に誇れるOSとなったからだ。そう考えると、"Panther"及び"Tiger"において、なぜあんなに早くアップデータが出たのかが理解できる。Intel版の開発のためにリソースをとられていたのでは?

まとめ

俺の仮説をまとめるとこうだ。
  • IBMはPC事業を手放し、またMac向けプロセッサ事業からも手を引きたがっていた。
  • 一方、インテルはAppleに製品を採用してもらいたかった。
  • AppleはIntel製CPUへの移行を2002年には決定していた。但し、IBMとの関係が悪化したわけでなく、いわば円満な離婚というべき別れだった。
  • だから、AppleはPowerPCが採用された次世代ゲーム機の発表まで移行をとどまった。
  • PowerPC G5はIntelへの移行までの間のつなぎのソリューションだった。よって、IBMは積極的な開発を控えた。アップルは、Cellプロセッサの採用を薦められても拒否した。
  • Intelチップへの移行には"Vanderpool Technology"が必要だった。

とまあ、こんな感じになる。辻褄が合うから不思議だ。まあ、真実はいずれ明らかになると思うが…(陰謀論者の気持ちが少し分かった(笑))

以上で与太話を終わります。