松下とジャストが争っていた「アイコン特許事件」で、東京地裁判決は松下の主張を認め、「一太郎」「花子」の製造販売中止と製品の廃棄を命じた。

この速報記事を読んで、大いに驚き、戸惑った。今年度顧客に一太郎を納入する予定のため、慌てて事実関係を確認した。とりあえず、最新版である一太郎2005は予定通りの出荷と言うことで安心したのだが。。

一太郎・花子に関する報道につきまして

それにしても今回の判決には驚かされた。

まず第一に、争点となっている松下の特許が、特許と言うには値しない内容であること。第二に、そのお粗末な特許で松下が何をしようとしているのかが不明瞭な点。

CNET及びITmediaにおいて、まとめられているのでご参照を。

「一太郎ショック」で鳴り響くソフトウェア産業への警鐘:ニュース - CNET Japan コメントを見る
世間的には“寝耳に水”といった感が強かったが、ソフトウェアの特許権侵害問題を受けて2月2日には各方面で「一太郎ショック」が走った。
ITmediaニュース:「一太郎」判決の衝撃 (1/2) コメントを見る
国産ワープロソフト「一太郎」に下った「特許侵害」と「製造販売の停止」という法の裁き(関連記事参照)。当面は現状通りの販売が続くが、ソフトウェア業界やユーザーに与えた衝撃は大きい。

ちなみに、見当はずれの社説はこちら。
YOMIURI ON-LINE / 社説・コラム[『一太郎』敗訴]「『知財』利用に一石を投じた判決」
asahi.com : ネット最前線 : 朝日新聞ニュース コメントを見る
ジャストシステムのワープロソフト「一太郎」の販売禁止命令に至った特許訴訟で、松下電器産業の知的財産(知財)戦略への力の入れようが際立った。

ネットでは松下を非難する声を多く見かける。松下製品の不買運動も始まっている。俺も松下のとった行動は非難されてしかるべきと考える。

今回の裁判の争点は、1)特許の進歩性、2)アイコンの定義、によると思うが、そのあたりは上記CNET及びITMediaの記事にまとめられているので俺としては特に言うことはない。

気になるのは、松下の意図だが、CNETの記事にあるように、松下には一太郎/花子に該当する製品はなく、また損害賠償も求めていないあたりが不可解。95年からライセンス交渉をしていると言うが。
CNETの取材に対し松下の広報はこう答えたという。

「たしかに直接収益的なメリットはないかもしれない。しかし、我々は『知財立社』を目指しており、今回の件もその戦略の一環だ」
知財立社については、松下の2005年度の経営方針に示されています。どこにも休眠特許で恫喝的訴訟をするとは書かれていませんが。まあ、少なくとも経営理念には反していると思います。創業者松下幸之助氏もきっと鼻が高いでしょう。

直接JustSystemsやマイクロソフトを訴えることをせず、SOTEC/ソーテックを標的とするあたり、松下の思惑を表していると思います。

同様の例に、ポルノ業者を標的としてストリーミング特許を主張した(そして認められた)Acacia Research Corporationがあげられるでしょう。

米企業がストリーミングメディア全般に関する特許権を認められる:ニュース - CNET Japan コメントを見る
同社は、5つのアダルト系エンタテインメントサイトに対する仮差し止めの裁定を勝ち取った。これにより、5つのアダルトサイトでは、デジタルビデオやオーディオのオンデマンド配信や、また同類のサービスを提供している他サイトへリンクを張ることもできなくなる。
訴訟能力の低い相手に先例を作り、そこから本丸に攻め込むという。逆に言えば、堂々と主張できるほどの特許ではないと言えなくもないのでは。

読売の社説では無邪気に 利益を上げる手段として知的財産権を活用しよう、という企業戦略を認めた判決である。 とあるが、とんでもない話と言わざるを得ない。

知的財産権は"武器"である。各企業が武装した結果どうなるか?イノベーションの停滞だ。
技術開発を行うたびに、法的な問題の検討が必要であれば、イノベーションのコストは著しく上昇する。苦労して開発した技術が、特許テロの標的にされたのでは報われない。 結果的に、イノベーションへのインセンティブは減少し、停滞をもたらす可能性がある。
知的財産権はイノベーションのインセンティブと考える向きが多いが、同時に"独占"と"コントロール"をもたらすものでもある。そして"独占"と"コントロール"はイノベーションを阻害する要因となりうる。よって、過度の独占とコントロールを与えるのは良くないと考える。

特許権の行使に何らかの制限が必要では?例えば、自ら具現化していない技術に関しては、強制ライセンスしか認めないとか、標準化団体に参加し、所有する特許に関して明確にしていない場合にはその行使を認めないとか。ほんの思いつきですが。

コモンズと、ここまで読まれた方で気づいた方もいるかと思いますが、最近『コモンズ』を読み終えたところで、影響受けてます。はい。この問題が気になる方で、未読の人はぜひご一読を。

ちなみに、ギレン演説バージョンはこちら。
ジャストシステム控訴に寄せて|Capture Buzzward.

参考リンク